キャンパスを舞台にしたサンドボックス型実践研究
※掲載内容は執筆当時のものです。
学生、こども、おとな、研究者がともに成長する場をつくる
研究の概要
当研究室では、①概念型探究、②マイクロクレデンシャル、③エージェンシーを育む学習環境、④教育測定?評価、⑤デジタルゲームの健全な受容に関する研究などを進めています。今回は学生と一緒に取り組んでいる研究として、③の取組をご紹介します。
エージェンシーとは、「自分たちで考え?行動し、周りの世界をより良くしようとする力」で、日本を含むOECD(経済協力開発機構)加盟国でその育成が取り組まれています。日本でもこどもを中心とした学びのあり方は、様々なところで重視されています。しかし、こどもは大人よりも知識やスキル、情動の面でまだ発達途中であるため、こどもにただ任せっきりで放置してもこどもたちのアイデアはかたちになっていきません。しかし、大人がレールを敷きすぎてしまうと、こどもたちはそれに寄りかかります。こどもが本来持つ力を発揮するためには、大人が必要かつ最小限の支援を提供することが大事になります。
当研究室で現在継続的に取り組んでいる③に関わる取組は次の表にある4つです。
? | 欧冠足球比分_bob体育平台下载-赛事直播官网 放課後SDGs |
愛大ゲームラボ | 欧冠足球比分_bob体育平台下载-赛事直播官网 おんがくクラブ |
愛媛チャイルド サポート |
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開催頻度 | 週2回 | 週1回 | 月1回 | 不定期 |
参加者 | 小学生?高校生 | 小学生?中学生 | 小学生?大人 | 小学生?大人 |
企画 | 教員?大学院生 | 大学生?大学院生 | 大学生 | 大学院生 |
主会場 | 教育学部オープンラボ | もぶるラウンジ | NP地域交流ルーム | NP地域交流ルーム |
インスタグラム QRコード |
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この中でも欧冠足球比分_bob体育平台下载-赛事直播官网放課後SDGsは、特に小学生高学年前後のこどもが主体的にプロジェクトに取り組むようになるための環境構成を明らかにしようとしています。もちろん人間ですので最終的には、こどもに寄り添いながらも魅力あるビジョンやスキルを持ち合わせた特定の大人がいるかいないかで大きく変わります。しかし、そのような大人がいなくても、こどもたちが成長できる空間を作るためのノウハウこそ、多くの方が知りたいことだと考えています。
これまでの取組を通して、簡単にまとめると以下のような特徴を持つ場をつくることがこどもたちのエージェンシー発揮を支えることがわかっています。しかし、これらが実現するとたちどころに主体的になる訳ではありません。こどもたちはしばしば大人に言われたことに従うことが大事で、自分で考えて活動することは良くないこと、言われたことだけを正しい方法でおこなうとすることがあります。そのような姿勢が変化するためには長い時間がかかります。
- 安全な場作り
- 多世代にわたるこどもとおとなの参加
- 新しい技術や素材の利用可能性の確保
- 活動の構造化と自由度のバランス
- 参加するこども同士の関係性
- スタッフ間の交流と連絡の体制
研究の特色
多くの方が、どのように教えたらもっともよく学ぶことができるのか関心があると思います。その問いに対して、先生方に協力してもらって、学校で新しい教え方の効果を実験で確かめたいと考えるかもしれません。しかし、私はそれは良いアプローチだと思いません。学校が研究に協力できる状況と範囲はとても限られていますし、毎年協力をお願いできるわけでもありません。そこで当研究で取り組むことにしたのが、サンドボックス型実践研究です。サンドボックスとは砂場です。デジタルゲームでは、マインクラフトのようにあらかじめ明確な目標やストーリーが設定されておらず、プレイヤーが自由な発想で世界を創造したり、行動したりできるゲームをサンドボックス型と呼んでいます。それと同様に、サンドボックス型実践研究は、自分たちで介入もしくは観察したい場を作ります。より良い学びを研究したい場合には、例えば放課後に無料塾のような場を作り、研究協力していただけるご家族に参加していただくことができます。そのような方針で、当研究室では上記の表のような様々な取組を実践しています。当研究室の取組は、いずれも単発のイベントではなく、年間を通してこどもたちやそのご家族にご参加いただいています。
研究の魅力
人や場の状況は刻々と変わります。またこどもたちを取り囲む状況や発達状況も徐々に変わっていきます。実践者も研究者もその状況の変化をよく見ておく必要があります。他方で、心理学の研究ではしばしば「??という個人特性が高いと××が起きやすい」というような仮説を検証しようとします。このような見立て自体は問題ありませんが、自分の仮説に拘泥すると現実が見えなくなります。私たち人間は思いもよらない機会に大きな変化や強さ?弱さを見せます。ほとんどのケースでこれらは予測不可能です。学びのプロセスにおける意外な発見はサンドボックス型実践研究の魅力です。また、教育実践をゼロから作るには、企画の立ち上げと洗練、仲間あつめ、広告、連絡方法、資料のシェア、振り返りの設定、地域との連携、資源の確保など様々な仕事に全て研究者が取り組むことになり、学べることが多くあります。
今後の展望
サンドボックス型教育実践研究は一つ一つの研究でわかることは断片的です。複数の年度を通してわかること、いろいろな取組を横断的に眺めてみてわかることは少なくありません。これまで多くの取組を欧冠足球比分_bob体育平台下载-赛事直播官网や他の共同研究者の先生方のおられる大学で進めてまいりました。これらを横断的に研究していくことが今後の課題のひとつです。
またAIの技術が爆発的に進歩したことで大量データを短時間で分析できるようになりました。例えば、月曜から金曜まで2時間の発話音声を数年間に渡って、録音したとしてもこれまではそのほんの一部しか分析することができませんでした。しかし、大規模言語モデルを活用すると、そのような長時間データも分析が視野に入ってきます。そこで、今後はこれまで蓄積した音声データを分析して、オンライン?コミュニティへの長期的な参加を通して子どもたちがコミュニケーション能力を発達させるプロセスを明らかにしていきたいと考えています。