社会制度や請負構造の中で立場の弱い林業の個人請負人いわゆる「一人親方」の就業環境等についての研究

研究の概要

林業は木を植えて、育て(あるいは自然に再生した森林の木を)、人々の生活に役立てるための木材として伐り出すことを主とする産業です。日本の国土の67%が森林に覆われ、そのうち約4割は木材を目的に人の手で植えた人工林である一方で、国内総生産(GDP)に占める割合は0.05%に満たないほどです。そして、我が国では一般に木を植え、育てる過程で大きく補助金に依存する政策や制度との関わりの深い「産業」でもあります。そのような「産業」で「植える」「伐る」といった作業を森林所有者や森林所有者の委託を受けた組織から個人で請け負う個人請負人、いわゆる「一人親方」と呼ばれる方々の働く手段、働き方、制度などを研究のテーマとしています。

研究の特色

林業の「一人親方」の研究は、私が大学院生時代に他界された恩師からいただいたテーマです。当時、福岡県では林業の「一人親方」が増えているらしいと恩師から声をかけていただき、現代なのに「親方」という響きに魅力を感じて修士課程の研究テーマとしてスタートしました。残念ながら恩師はその直後に他界されてしまい、一緒に議論をすることは叶いませんでしたが、当時「増えている」と言われていたのは、労災保険第二種特別加入制度(「一人親方」対象)の加入者が増えているということでした。当時、林業政策の中では直接雇用労働者への政策を重点的に展開しており、実態すらつかめない状況でした。そこから、林業の第二種特別加入制度を取り巻く半世紀をまたぐ歴史について国会図書館をはじめ各種研究機関の書庫で資料を探し(思えばこの頃の研究活動が最も幸せでした)、実際に林業で「一人親方」としてお仕事をされている方へのアンケート調査やインタビュー調査とさまざまな手法でアプローチしました。

研究の魅力

森をつくる、育てることは、その地域の気候や地質、地形など多様な自然条件に合わせて、適当な樹種を植え、育てる過程では常に観察による理解とさまざまな知識をもとにした判断が必要となり、総合的に自然科学の知識を応用する人類の営みであるところに魅力を感じます。

一方で、そこで働く方を対象にした研究では、課題の多い「産業」の階層的な構造の中で、働き続ける方々のご苦労や閉塞感、時には社会制度全体の解決しがたい問題に直面し、「新しいことが分かる」ことを単純に楽しめるものではありません。常に眉間にしわを寄せて、その先に課題の解決策を模索していかなければなりません。

高齢級の下層植生豊かな人工林(2013)

今後の展望

林業は森林を場とするため、戦後はげ山が広がっていた時代は土砂災害対策、今は地球温暖化防止対策や生物多様性などの環境へ働きかける活動も求められ、木材生産以外の側面にも配慮が必要になります。また、台風や集中豪雨などによる土砂災害のリスクにさらされること、近年ではニホンジカによる食害のため防護柵の設置が欠かせなくなっていること、そもそも作業を委託する林業で働く方が少なくなっていることなど、50年、60年後の木材販売による利益を期待して人工林へ投資することへのハードルはますます高くなっています。

林業は肉体を酷使する労働で、政策、補助金に依存した「産業」であるにも関わらず、労働災害は多く、それに見合う報酬を得られているのか常に「?」が付きまといます。そのような条件でも林業で働く決断をされた方がいる限り、少しでも働く環境を改善できるよう取り組んでいきます。

素材生産現場の安全旗(2016)

この研究を志望する方へのメッセージ

林業で働く方々の研究だけでなく、日本の林業は様々な課題を抱え、新しい時代に向かっていかねばならず解決すべき研究課題は山ほどあります。欧冠足球比分_bob体育平台下载-赛事直播官网に限らず、複数の大学の農学部にある森林コース(欧冠足球比分_bob体育平台下载-赛事直播官网農学部では「森林資源学コース」)に進学して、林業への知識を深めていただけると嬉しいです。